1人が本棚に入れています
本棚に追加
さて、それで今日はどんな悩みを抱えてきたんだい?
ふふん、美人教師の実態は気になるからな。調査報酬分くらいは君の質問に答えるさ。
ふむ、嫌いの反対を知りたい、と。これはまた随分と厄介な悩みを持ってきたね。
あぁ、君が助けを求めたくなるのも分かるよ。確かに難しい問題だ。君のオツムがよろしくないことは前々から知っていたが、遂に小学生以下にまで後退したということだろう?
こんな質問で対価を得てしまうのは少々申し訳ないようにも思うが、そういうことなら仕方ない。今さら恥ずかしくて現国教師に教えを乞えない君の為に答えるが、嫌いの反対語は…む、違う?そうではなくて?好きの反対が無関心だから、嫌いの反対を何と表現すればいいのかが気になった?
ふむ、やはり君は小学生からやり直した方が良いようだ。
何故って、テスト問題で「好きの対義語を答えよ」と出題されたら君は「無関心」と書くつもりのようだからね。少なくとも小学生は「嫌い」と回答欄に記入するだろうし、幼稚園児ですら好きと嫌いが反対の言葉だと理解しているさ。おや、そうすると君は幼稚園からやり直さなければならないのかな?
ふふん、なんてな。冗談だ。ゴミを捨てたら近所のおばさんに突き返されたような顔をしなくても君が言いたい事は分かっているさ。
例えが分かりにくい?ふむ、それなら母親代わりにしていた猫に見捨てられた犬のような顔というのはどうかな?…まだ微妙なのか。ふむ、次はもっと絶妙な例えを提供しよう。楽しみに待っていたまえ。
さて、話が逸れてしまったが、好意と無関心が逆の位置にあるというのは理解できない話じゃない。好きという感情は相手に興味があってこそのものだし、まさにボクがそうだからね。
どや顔をしているところに水を差すようだが、ボクは無関心の対になる言葉が好意だとは言っていないよ。
矛盾しているかい?だけれどね、確かに君の言う通り好意の反対は無関心かもしれないが、それは人間の感情すべてに対して該当するのであって、好意に限定されない感情の衝動すべてが関心に繋がっているのだよ。
だから、結論を言ってしまうけれど、嫌いの反対は無関心さ。ただしこれも片道切符であって、無関心の対岸に嫌悪を据える事は出来ないのだけれどね。
さて、以上が君の質問に対する回答だが、何か反論があるかい?
ふむ、まだ完全には納得しきれていない顔をしているね。サッカーの観戦チケットをねだったらカバディのチケットを渡されたような顔だ。…む、この例えも気に入らないのか。結構近しいと思ったんだが。次はもう少し考えてみよう。
ふむ、そうだな。いくら理数の女神に見放された君でも10+10=20ということは理解できるだろう?
だがもし【和が20の計算式を答えなさい。ただし正解は一つです】と言われても、19通りからなる計算式のどれが求められている解なのかなんてこと、何かしらのヒントが提示されているか若しくはよほど質問者の性格を熟知しているかしなければ、一発で引き当てることは難しい。…これは理解できるかい?つまりはそういうことさ。
む、これでも繋がらないのか。
ふむ、君は料理が得意だったね。それなら、あの冷蔵庫には美人教師が入れた果汁100%のリンゴジュースが入っている。その元になったリンゴの形を寸分違わず再現できるかい?調べることなく産地を言い当てることは?
あぁそうだね、不可能だ。未来からネコ型ロボットを呼び寄せでもしない限り変貌した食材を元の姿に戻すなんて実現し得ない事だし、ここにある手作りプリンのように君が直接作ったならまだしも、完成形を渡されただけで過程すべてを知ることは難しい。憶測なら出来るだろうけれどね。
つまりボクが言いたいことはさ、いくらイコールで求められたからと言っても、元の姿を正しく表現するには選択肢が多すぎるということさ。少しは理解できたかい?
さて、しかしね、君。好き嫌いの話に戻るけれど、真実はひとつかもしれないが、そもそもベクトルが違うんだ。単位や規模と言った方が良いかな?君だって、グラウンド一周の距離を測るために15センチ定規を使うことはないだろう?
お互いを完全な等記号で結びつける為には同じ土俵に上がらなければならないけれど、感情のカテゴリに含まれる好意や嫌悪では種類が異なるのさ。テレビで力士が子供と交流している様子を見たことはないかい?数人がかりの子供ですら良いようにあしらわれているだろう?あれと同じこと…む、待てよ。交流時には同じ土俵の上に立っているからこの例えは適合していないじゃないか。むぅ、ミジンコほども理数科目に興味のない君に分かりやすく説明するというのは難しいものだな。あぁ、今の例えは忘れてくれて構わないよ。さほど重要ではないからね。
ふむ、というよりそもそも、世の中すべてが数式で成り立っているわけじゃないとボクに言ったのは君じゃないか。真逆を表す記号が無い数式を完璧だとは思わないとね。しかも初対面でだ。忘れたとは言わせないぞ。
だからというわけでもないが、理数科目を目の敵にしている君にボクが与えられる答えは、好きの反対が無関心であるなら、嫌いの反対もまた無関心である。さ。
ふむ、そうすると、敵の敵が味方になる原理からすれば好きと嫌いがイコールで結ばれるのか。まったく、言葉というものは本当に摩訶不思議だね。嫌よ嫌よも好きの内とはよく言ったものだよ。
最初のコメントを投稿しよう!