船を流す

3/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
夫の転勤で福岡に2年暮らした間に、九州のいろんなところへ旅をした。 長崎県樺島という、観光地でも何でもない所へ旅したのは、丁度お盆の時期だった。 玄関に鍵をかけるどころか、潮風に強いアルミの引き戸を開け放ったままの小さな家々が、神聖なほど美しい海辺にかたまっているのだが、ちらりと覗いた座敷の仏壇の前に、美々しく飾り立てられた白木の50センチくらいの船が置いてある。 キラキラするモール、ピンクや白や紫の目の覚めるような造花で飾られて、ツヤツヤする布の白い帆を立てている。帆には黒々とした墨で「西方浄土」と書いてあった。 5歳だった息子はそれを見るなり目を輝かせて「あれなあに?おふね?」と心惹かれた様子。 長崎のショウロウ流しは有名だが。 この島では新仏を迎えた家が、お盆の最終日に、白木の船を海に流すらしい。 桃の缶詰やらカップ酒やらカントリーマームのパックを乗せた船は、仏さまとおみやげを乗せて西方浄土に向かって出帆するのだ。生きてる時、漁師だった新仏さまは、どうやらあの世に行くのにも、茄子の牛やきゅうりの馬は使わず、船らしい。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!