序章

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序章

 この部屋に足を踏み入れたときから、和人(かずと)はあまり気分が良くなかった。  今日から新しく住むことになった部屋は、何軒も不動産屋をハシゴして、その上で何日もよく考えて、今後の新たな生活を夢見てようやく探し当てた、などという苦労は一切費やしていない。とりあえず住めればいいやという程度の気持ちで、なんとなく決めた部屋である。  だから、いちいち部屋に文句をつけようなどという気はない。クローゼットや箪笥などの家具だけではなく、電子レンジ、エアコン、冷蔵庫などの家電に、風呂まで完備されているのだから、むしろ想像以上の部屋だと言っていいだろう。  もっとも、勿体無いので冷蔵庫以外の家電は使わず、風呂は極力シャワーだけで済ませる予定だが。必要以上に節約しないと気が済まないのは、和人の面倒な癖である。  しかし、別にこんなもの要らないと言って、家電を返上しようと言うわけではない。和人が気になっているのは、部屋に入った時に覚えた不快感だった。
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