序章

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 和人には、一種の霊感のような能力があった。そして彼のそれは、「部屋」に対してとても敏感であった。部屋のオーラというか、気というか、そういう些細な雰囲気の違いを感じ取ることができるのだ。  この部屋に入ったとき、和人は『厄』を感じた。悪霊の姿が見えたりしたわけではないが、何となく生理的に抵抗がある。和人はそんな部屋を、『厄部屋』と呼んでいた。  しかし、こういう部屋は決して珍しくはなく、実際同じような部屋を発見したことは何度もある。ところがその部屋で誰かが亡くなったとか、事故があったとかいう、縁起の悪い話は一切ない。  だから、和人は『厄』を感じていたとしても、特に気にしないようにしていた。今度は自分の部屋というのもあり、多少の抵抗はあったが、それでも同じ様に気にしないようにしていたのだ。  この部屋に引っ越して三日ほど経つが、やはり何も起きない。和人はだんだん、『厄』を気にすることは全く無くなった。  このときの和人は、この『厄』が自分の生活に影響を及ぼすとは、思いもしなかったのだった。
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