1 a.m.

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1 a.m.

 和人は、上半身裸でベッドで横になっていた。ただし、腹の部分だけは、一枚の毛布で覆われている。これが彼なりの風邪対策なのだ。  和人は明日、大学の仲のいい友達と旅行に出かけることになっている。二泊の国内旅行だが、その資金を集めるのにはかなり苦労した。だから、ここで風邪を引くわけには行かないのだ。  と言っても、やはり暑苦しいことには変わりない。和人は枕元に右手を伸ばし、団扇を探し当てた。扇風機すら使わないというのが、和人の主義だった。  それでもとうとう団扇だけでは我慢できずに窓を開けるが、部屋に漂って来る風は熱風だった。  思わずため息が出そうになったとき、和人の耳が不快な音を捉えた。思わず和人は団扇を仰ぐ手を止める。まるで男が苦しみ呻いているような、恐ろしい声だ。  しばらくすると、その声の後を追うように、頭上からがたんという音が聞こえた。  和人は驚いて部屋を見渡す。だがそのときにはもう、音は聞こえなくなっていた。   「何だ、今の……」  和人は思わず口にした。なんだか気味が悪い。和人は団扇を枕元に戻すと、そっと自分の足を毛布の中に収めた。
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