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 和人は再び、扉の前に立っていた。あのあと和人は階段を駆け下りて、上半身裸のまま一階の大家の部屋を訪れた。だが、部屋がとてつもなく暑いと言うと、エアコンを使えと言われ、変な音が聞こえると言うと、病院に行けと言われてしまった。  もちろん、団扇しか使う気は無いし、病院よりも旅行だ。  旅行から帰ったら、不動産屋に相談しよう。そう心に誓うと、和人は仕方なく、厄部屋に戻ることにしたのだった。  ゆっくりと扉を開けると、熱気が溢れてきた。だが、さっきほどではない。それに、変な音も聞こえない。和人はとりあえず一安心し、ベッドに戻った。しかしまたしても、和人の体が異変を察知した。  変な匂いがするのだ。和人は思わず飛び起きた。そして、急いでガスコンロをチェックした。ところが、異常は見当たらない。玄関を開けて狭い廊下を見渡すが、他の部屋が火事になっているということもなさそうだった。  本当に病院に行ったほうが良いかもしれない。いや、それで治ればまだいい。もし『厄部屋』のせいだったとしたら、どうしようもない。  『厄』は人体に影響を及ぼすのだろうか。和人はベッドに飛び込むと、顔を枕に埋めた。そして、今まで経験してきた『厄部屋』のことを思い返した。  まず思い出したのが、和人が通っていた高校の家庭科室だ。特に何も事件は起きなかったはずだ。強いて言えば、調理実習でつくったカレーが不味かったということがあった。その時和人は初めて、不味いカレーというものを口にしたのだった。  次の記憶も高校時代のものだ。友人の家に遊びに行ったとき、その友人の部屋が『厄部屋』だった。ちなみにその友人というのは、明日一緒に旅行する友人でもある。だが、その部屋で何か事件があったかは思い出せなかった。少なくとも和人がその部屋で遊んでいたときは、何もなかったはずだ。  ーーいや、なにかあったような気がする。そうだ、事件があった。しかもとても愉快な事件が……。  だが、さらに記憶を引っ張り出す前に、和人はいびきをかいて眠ってしまった。腹に載せていた毛布は、床に落としてしまっていた。
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