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6:00a.m.
和人はハンガーにかけてあったコートを羽織ると、床に置いていた旅行バックを持ち上げた。和人は玄関の手前まで来ると、振り返って部屋全体を見渡した。
謎の音と異常な暑さのせいで、昨晩は少ししか眠れなかった。疲れはあまりとれていない上、すこし風邪をひいてしまったかもしれない。先程から何度も咳が出ている。
どうして、よりによって旅行の日に災難が降りかかるのか。和人は大きくため息をついて、ドアノブに手をつけた。
その瞬間、がたんという音が聞こえた。それと同時に、何か高い音も聞こえた。和人の腕に鳥肌が立つが早いか、続けてノイズがかかったような奇妙な機械音がした。
再び部屋を見渡してみるが、数秒前の景色と一切変化はなかった。いよいよ本当に恐ろしくなってきた。和人は素早くドアを開けると廊下に出て、そのまま鍵をかけてしまった。
和人は旅行バックを地面にどさっと置くと、手の中にある鍵を眺めた。いっそのこと、これをどこかに放り投げてやりたい気分になった。
一つ、くしゃみをした。本当に踏んだり蹴ったりだ。ちゃんと毛布もかけておいたのに。考えてみれば、あのクーラーすら稼働させていない暑い部屋で、風邪をひくなんてありえない。やはり『厄部屋』が和人自身に直接『厄』を及ぼしているとしか思えなかった。
今まで数々の『厄部屋』を見てきたが、こんなことは初めてだ。和人は心の中で愚痴を言いながら、早足で廊下を歩いていった。
ーー本当に暑かっただろうか。和人が朝起きたとき、部屋はそこまで暑くなかったのではないか。
だが、それ以上あの部屋のことを考えるのは、和人にとって不愉快だった。和人の気分は、ゆっくりと旅行気分へと移り変わりつつあったのだ。
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