二皿目 シャル様が物申す。

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「くっ、うぅ……法律違反はイケないな……」 「だろ? だからやっぱり殺すしかねぇんだ。大丈夫、城の人員だから俺が後任も見繕って研究に滞りねぇよう取り計らうぜ。クックック……!」  悩ましい俺だが、アゼルが優しくポンポンと何度も肩を叩いてくれる。  法律違反を危惧しているから、安心させようとしているのか……。  しかし困り切っている俺は、どうしようどうしようと顔を伏せるしかない。 「今日一で魔王みてェな顔してやがる……さり気なく殺すことにしてるしな……」 「そしてしっかりトルンの影を縫い付けて少しも動けないようにしてるあたり、殺す気満々だね。シャル関連は魔王様、本当に極端でらっしゃるからなぁ……」 「いい加減気づけよな、シャルの野郎も。これを知ってるから、アイツ以外魔王のどのへんが可愛いのか理解できねェってのに」  呆れ返るリューオとユリスの会話は、頭を悩ませる俺に届くことはなかった。  ついでに言うと、俺を慰める暴走気味のアゼルが処刑方法をあれやこれや考えていたことにも、全く気づかない俺だった。 (うぐっ……ど、どうしようか……! 俺は一応ピンピンしているし、メンタルはボロボロだが気にしていないというか……)  気にはしているが、それはアゼルたちに申し訳ないという気持ちだ。  トルンに罰を下したいだとかは、思っていない。  俺を呪ったせいでユリスたちにも迷惑をかけたので、それは謝罪してもらおうかな。  後は部屋の片付けと、始末書でいいんじゃないかと思っている。  戦闘ですとなれば切り替えるので容赦はしないんだが、普段はちょっと、な。  俺が被害者なら、なにも丸く収まった後で痛いことはしなくってもいいんじゃないかと、考えるのだ。  しばらく懸命にうーんうーんと悩んだが、どうにもならない。  仕方ないので、俺は座ったまま目の前のアゼルにギュッと抱きついた。 「うおっ……!?」  アゼルはしゃがんでいたので体勢を崩し、俺に覆いかぶさるように引き寄せられてしまう。こうなったら、もう俺にできることはひとつだけ。 「グルル……! お、おねだりしても、こればっかりは譲らねぇぜ……!」 「おっ、お願いだっ」 「ふぐぐ……っ、だ、だめだぜ法律違反だ……!」  ──もちろん、悪あがき。  ひたすら頼むのみだ。  器用じゃない俺は、誠心誠意頼み込むと言う選択肢しか持っていないからな。  腹部に抱きついたのは顔を見ると申し訳なくてアゼルに無理強いできないので、根負け対策なのだ。  別にハグがしたいわけでも、イチャイチャしたいわけでもない。 「お願いだ、お願いっ」 「むぐ、うぅ、っ、だめだっ、また呪う可能性が、うぅ」 「アゼル、お願いなんだ……!」 「あぁああ……! 基本ワガママを言わねぇ嫁に初めてこう、必死に頼まれたことが、他の野郎の命乞いってのが……ッ! 生きたまま摩り下ろしたいぐらい、む、ムカつくぅ……ッ! クソッ、なのにクソおおッ……! スリスリしてお願いするシャルがかわいいぃ……! あぅぅ……!」  アゼルはなにやら全力でブツブツ呪詛を吐いて悶絶してしまう。  しかし俺が必死に頼んでも、うんと頷いてはくれない。しゅん、と眉が八の字に下がってしまう。 「ぉ、お願いだ……っほんとに、ダメか……?」  もうだめか、と思うと、情けない声が出た。アゼルを困らせるのも嫌だ。  すると震えるアゼルが天を仰ぎ、ただ小さく「尊い」と一言。 「あわ……わっ、わかったぁ……!」 「! ありがとう、ありがとうアゼルっ」  苦渋の選択を経たアゼルにむぎゅう、と抱きしめ返され、嫌々了承を得る。  お願いを受け入れてもらった俺は、ワガママを聞いてくれた感謝を込めて、抱きしめる腕の力を強めた。  ふう……被害者が加害者の命乞いをするという謎の状況だが、これにて一件落着だろう。  正直もうこんなことは勘弁してほしい。  トルンにはよく言って聞かせないと。  本日の魔王城は、散々な出来事に塗れた、濃厚な昼下がりであった。 「アイツ強ェわ……惚れた弱み最強かよ……。ユリス、俺にも抱きついてお強請りしてみねェ?」 「お願い、死んで?」 「グハッ……! それ抱きつきじゃなくて首絞めェ……」
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