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(sideリューオ)
「──だからな、獣耳の力は偉大だったぞ。リューオがユリスの獣耳を愛好しているのを、もっと早く参考にするべきだったな」
俺の部屋で小さな二人がけの丸テーブルを囲み、魔王城の菓子屋特製フィナンシェをお茶菓子にしたティータイム。
いつもよりワントーン明るい声が嬉しそうに語るのは、犬耳の魅力についてだ。
ぱっと見は真面目そうで精悍な面差しの男が真顔で話しているように見えて、その周囲にはわかりやすいほど、フワフワと花が飛んでいる。
顔の変化はくしゃくしゃするほど変わらない男だが、瞳や空気が実に雄弁だ。
普通に見るとコイツの笑顔は、微笑み程度の笑みに見えるだろう。
しかし慣れた俺にしてみれば、ニッコニコのごきげんな笑顔にしか見えない。
ニコニコと嬉しそうなその男は、俺と同じ異世界から召喚された不運な男──シャルだ。
そして紆余曲折、魔王の嫁でもある。
意味わかんねぇだろ。男だしな。
まぁ実のところ俺はバイだから、性別は気にしない。展開が意味不明なだけで。
美少年好きの俺にとってシャルは好みじゃないから、いい友人ってところだ。
「ほーん」
一生懸命話すシャルに俺は気の抜けた相槌を打ったが、シャルは気にした様子もない。
俺は自分本意な性格でやりたいように動くんだが、シャルはこのとおり。
話を聞いていない態度をとっても、怒らないのだ。いやマジで。
殴っても罵倒してもケロッとしているし、嫌味を言っても全く気がつかない。
天然で鈍感なのほほん野郎だ。
そんなシャルも、少し前には〝普段思っている悪口を言う〟と言う呪いにかかって、俺に初めて明確な文句を言った。
曰く、口が悪い、強引だ。
以上。
……俺が言うのもなんだけどよ、もちっと不満を持ってもいいんじゃねぇかと思う。
大体にして、初対面が大問題。
俺が人間国の王様という一方の意見を鵜呑みにしてコイツを攫い、殴ったり貶したりして、挙句処刑させる為に縛って捕獲した。
更に相思相愛だったらしい魔王に余計な真実を怒りに任せてアレやそれやぶちまけて、拗れさせたことがある。
なのに、この馬鹿はまるまる許して、むしろ綺麗さっぱり愛し合えるとお礼を言ってきたくらい、人に悪意を向けない男だ。
その旦那の魔王も、非常に、ひっじょうに腹立つ遠回しな言い方でだが、礼を言ってきたけれど……アイツはコレとは違う。
今は割と打ち解けている。
ってか、喧嘩はするが殺し合いはしねぇ仲間、みてぇな位置になってる。
ケドあん時は、俺自体に興味なかったんだよな、たぶん。
先代シャルの情報を持ってきたのと、丸く収まったから不問にして、情報の礼だけ言っただけだ。
それも全て、シャルが俺を許したから。
いやァ……実はあん時シャルのこと何回か殴ってるの、バレてなくてよかったぜ。
バレてたら早朝バトル再開だったな。
癪だけど、本気出されたら殺されてると思うしよ。
人間国の王みてェに。
あ、これシャルには秘密だぜ?
魔王に「自分の為に俺が誰かをどうにかすんの、アイツ嫌いなんだよ」って拷問の返り血に塗れながら、もじもじしつつ言われた俺の気持ち。プライスレス。
照れながら言われてもなにもかわいくねぇ。
気持ち悪ィ。いや、怖いわ。普通に。
魔族の感性と人間の感性が違うって、改めて納得したかんな。
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