閑話 現・勇者から見た元・勇者

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 まぁ王様が殺されたことは、仕方のねェことだ。  魔王はシャルの八年間の孤独で冷たい血に塗れた生活も、仕打ちも、知らない。  魔王の前では人間らしく泣けるあいつの、見ているだけで痛ましい泣き方を知らない。  それでもシャルの死を願っている、というだけで、生かしておくわけねぇンだ。  本当に、いなくなったら駄目になる存在だからだろうな。  俺はれっきとした人間で勇者だが、わかりやすいくらい命の重さをジャンル分けしている。  自分の好きな人、仲間、世話になった人。  好きでも嫌いでもない、普通のどうでもいい人。  殺したい程憎い、嫌いな人。  俺が殺そうと思うのは一番下。  どうでもいい人は死んでも気にならないが、殺そうとは思わない。  無為に殺されるなら、守ろうとすら思う。  魔王が殺そうと思えるのは、どうでもいい人まで。  逆に言うと、一番上以外はどんな些細な理由でも排除できる。  国王を殺した血に塗れたまま先代シャルの墓に手を合わせて、恩人の冥福を祈る魔王。  俺には矛盾の塊に見えたが、不思議と好感が持てた。  認めたくねぇけど、俺とコイツは少し似てるから。  ……いや、ほんのちょっとだぜ?  爪の先ぐらい……いや、やっぱ似てねぇ。ムカつく。  閑話休題。  長くなった。  そんな魔王に唯一無二と愛されるシャルだが、愛されることに慣れてはいない。  客観的に見てかわいくない自分の容姿をなんとかしようという思いを、日々密かに抱いている。  テーブルに肘をついてじっと見つめると、一見真顔に見えるがその実キョトンとした表情で、シャルは首を傾げる。 「俺の顔になにかついているか? ……まさか、獣耳が見たいのか? あれは最終兵器だぞ」 「アホか。百八十超えの野郎の獣耳なんざほろ苦いモン、全く一ミリも見たくねェわ」 「んん……まだリューオに通じる程の可愛さは、磨けていないようだな」 「俺を落としたけりゃ獣耳ツンデレ美少年つれて来いっつの。できればショーパンで」  例えばユリスとか、ユリスとか、ユリスとか。  神妙な顔をしているシャルには、逆立ちしたってなれないだろうが。  俺がかわいいと聞いて思い出すのは、いつもつれないアイツだ。  見た目がドストライクで、声をかけたら冷たい目で睨まれツンとあしらわれ、ますます欲しくなった。  気がついたらドツボ。  あぁ見えて実は面倒見もよくて、すぐに他人を貶す物言いをするケド悪役にはなりきれない甘さを持つところが、たまらなく好きだ。  中身も外見も、まるごと好きになった。  なので万雷のスタンディングオベーションを込めて最高にかわいいと愛を告げるのだが、成果は奮わない。  俺でなくとも誰に聞いてもかわいいと言われるほど愛らしいユリスを、シャルはよく自分と比べて理想としている。  ユリスの恋愛テクや美容法を、馬鹿真面目に教えてもらっているのは知っていた。  別の存在なのだからなれるわけねぇのに、日々四苦八苦してる。  そのせいなのか。  いや、そういうところが、だろうなァ。  自分に好かれるために努力する嫁ってのは、かわいく見えると思うんだ。  ……俺のじゃねぇけどよ。  ま、俺は性癖が違うから抱きたいとかそういうのは、なんとも思わねぇがな。  シャルはかわいいの欠片もねぇし。  年上で、容姿もなかなか上等な類だが、どう見ても男だ。  更に度胸があって、メンタルボロボロでも他人を思い遣るコイツは、結構男らしい。  普段から意外とハキハキと物を言うし、やるとなれば躊躇しねぇかんな。  かわいいの欠片もないのは、そういうことだ。  それがかわいく見えるのは、好きなやつに周りと比べてどう思われてるのか気になるから、愛される為にかわいくなりてぇっつーとこなんだろうな。  ……いや、俺のじゃねぇけどよッ!  チックショウ、ムカつく魔王の嫁が結構イイ奴だと余計に腹立つぜ。  魔王め。  いつか寝起きドッキリを仕返してやらァ。
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