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「おかしなことなど王は仰っておりません。この異世界人どもは、不法侵入者です。世界にすら勝手に踏み込んできたくせに、我々の城にまで土足で上がりこまないでいただきたい」
「さて、ふざけているのはどっちでしょうねェ。恋愛信仰盲目様もかまちょヘラビッチ様も、我々は召喚された異世界人なのですよォ。この意味がおわかりいただけやがりますかね?」
リューオ、いけない。
隠しきれないセファーへの殺意でボロが出かけているぞ。
けれどそう言われたセファーは閉口し、舌打ちをする。頭がいいからこそ、リューオの言葉が正論であると理解しているのだろう。
彼はきっと理屈ではなく、感情で俺達を否定しているのだ。
リューオの言葉を受け、俺は困惑するアマダに視線を戻し、わざと怒りを燃やして睨みつける。
「そう。その通りだ。アマダ……お前は自分でアゼルに『魔王とその家族を城へ招待する』と言ったんじゃないか? 自分で言っておいて、俺たちはいつになっても招待されやしねぇのはどういうことだ。いざ来たら不法侵入とは、どういうことだ」
「そ、それは俺にも事情があって、……っそんなつもりなかった。だからちゃんと挨拶に行っただろ……?」
「挨拶? 宣戦布告の間違いじゃないのか?」
そう言うと、途端に表情が戸惑いから悲愴に変化する。言いすぎてしまったかと思わせるようなそれに、負けてはならない。
「シャル、酷い……っ俺だって、悪いとは思ってっ」
「黙れッ!」
「ッ」
「言い訳は聞かない。お前の行動、表情、言葉、全てが俺は芯のない上っ面に思える」
声を荒らげればアマダはビクリと震え、隣に立つアゼルの少し後ろに下がり、腕を絡めたまま縋るようにアゼルを見つめた。
俺の胸がズキズキッ、と痛むが、アゼルはその手を振りほどかない。
痛ましそうに眉を寄せてアマダに視線を返し、まるで味方のように振る舞う。
……わかっていても、少し妬く。いや、結構妬く。むむ、演技に身が入るな。ヤキモチがこんがり焼き上がる。
セファーの動きはリューオが止めてくれているので、アゼルが動かない限りずっと俺のターンだ。
離れの戦いセカンドステージ。
甘やかされていたアマダにお説教をして揺さぶるのは、兄であるガルからの頼みでもある。友人の頼みは叶えたい。
「悪いと思っているなら離れろ。恋敵である俺を嫌っているくせに、俺に嫌われないよう詭弁を吐くのはやめろ」
「お、俺はそんなことっ! 思っていない! 嫌いだなんて、そんな……っ」
憎しみを込めた声を上げる俺は、テーブルから立ち上がった。
そして否定するアマダにズイと近寄って、真っ向から言及する。
「誰よりも誰にでも好かれたいなら、お前が好きなのは自分だ」
「!」
「お前の愛情は、自分専用だろうが。さっさとアゼルを返せ。でないと俺たちは帰らねぇぞ」
「──シャル、帰れ」
「っ」
罪悪感を堪えつつ思いっきりアマダに楔を打ち込み終わった時、ようやくアゼルが動いた。
アマダの肩を抱いたまま、いつもとは違う低い声で、迎えに来た俺を突き放す。
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