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パッと顔を上げて、俺はアマダを睨んでいた視線をアゼルに向けた。
無関心な表情。
アゼルはまるで記憶喪失事件の時に過去へ戻ってしまった、魔王様のようだ。
「な、なんでっ」
「お前は俺の番だけどな、他種族の王とじゃ、無礼がすぎるだろ。それに……俺は帰れと、手紙を送ったはずだが?」
「それは……、っそう、だが……」
淡々とした拒絶に、俺は悔しさを噛み締めて顔を逸らした。
もちろん演技である。
わかっていれば、悲しくもなんともない。アゼルは俺を愛しているのだ。
「アゼリディアス……」
アマダがアゼルの名を呼び、俺とアゼルに交互に視線を走らせた。
それはそうだ。普通に考えると手のひら返して俺に無関心になり、アマダに肩入れするアゼルは、異常に見える。
けれどアマダはアゼルの手を払うこともなく、悩ましく思いながらも甘受した。
セファーが勝手に洗脳を企てたということを、少しは察しているのだろう。
でないとアゼルが急にアマダに寄り添うのはおかしいと気づくはずだ。
それでもなにも言わないのは、それを是と受け取ったからに他ならない。
アマダはアゼルが好きだから、わかっていても拒否しない。したくない。気持ちはわかる。
だがつまりセファーは、アマダを愛しているのに、アマダが愛するアゼルを与えるため、魔界に喧嘩を売るようなことをしたのだ。
──……なら、アマダが報いるべき愛は、そこにあるんじゃないのか? と思うのは、お節介だろうな。
「……チッ、お前のせいで……」
恋が上手くいかない悩ましさを噛み締め、上手くいった愛する者を取り返すべく、俺は強くアマダを睨みつけた。
もちろん演技だが、大人しそうな顔立ちの俺がツヤピカで睨むとなかなか怖いみたいだ。
「う、ぁ……っい、いいんだ。アゼリディアスは、シャルと帰っていいぜ。壊された儀式の道具を直さなければならないし、遅れた段取りを立て直さないとな……」
睨まれたアマダは状況に気が付き、ニコリと笑ってアゼルの背を押した。
その笑顔は悲壮なものだ。悲しい中、笑顔を見せて強がっていることがよくわかる。
アゼルが眉を寄せて、自分より少し低い位置にあるアマダの頭に、ポンと手を置いた。
「アマダ、気にするな。帰らねぇよ。俺が手伝う。シャルとリューオだけで帰らせるから、大丈夫だ」
「えっ、でも……」
「なっ……アゼル……っ、俺よりも、アマダと行くのか……っ!?」
アゼルのとんでもない発言を受けた俺は、渾身の演技で驚愕し、アゼルの肩をグッ! と掴んだ。
「行かないでくれ、なぜっ、俺より大事なのか……っ?」
「ッ、……あぁ、当たり前だろ」
「アゼリディアス……。っ俺はいいんだよ、俺よりシャルをっ」
もちろんこれも作戦だ。
安心してほしい。
脳内でかの軍師の「今です!」が聞こえたぞ。頑張り中の俺である。
そしてこの悲壮感溢れる引き止めの演技はな、おねだりにダメダメと首を振る俺にしがみついて駄々をこねるアゼルのモノマネだったり。
ふふん。上手だろう? アゼルは演技中なのに、一瞬狼狽えたぞ。迫真の悲壮感だ。
なぜなら見本であるアゼルの駄々っ子モードが、いつも本気だからであった。
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