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いいか? コツはこう、キューンと子犬のようにしょげかえること。じっと目を見つめ、口元をへの字に曲げてだな。
「嫌だ、アゼル……っ、王様なんてどうでもいいじゃないか、俺と帰ろう……?」
「カッ! ……帰らねぇ。うるさいぜ、黙れ」
めいっぱいの〝もっと一緒にいたい〟を込めて、必死に甘えるのだ。
「どうしてだッ! 俺と帰れば、胡桃のクッキーもたくさんあるし、手作り弁当も作るし、風呂にみかんも浮かべてやるのに……ッ」
「グッ!」
そしてどうにか気を引こうと、好きなものを列挙して誘いをかけることもする。
アゼルは一瞬だけまた呻いたが、演技中なのですぐに冷たい表情になり俺の懇願を一瞥。
「……どうして? 俺の命令が聞けねぇのか? そんな身勝手なやつだとは思わなかったぜ、失望だ。離せ」
「ぁうっ」
パフォーマンスなのか、ペシッと鳥の羽が当たった程度に優しく手を叩かれた。俺はさも痛いように手を離し、呆然とする。
次いで俺と違い振り払われないアマダの手を見て、怒りと嫉妬に燃え上がった様子で、奥の手を使った。
「アゼル! お前は俺のものだろ……っ、なんで避ける……? 俺は添い寝もするっ、一緒ならなんでもしてやるのに……っ? お前をこんなに愛してるのに……っ?」
「ナッ!」
──そう、これぞアゼル必殺、〝俺が一番お前を愛してるのになんでダメって言うんだ! 攻撃〟だ。
背後から精霊族とリューオの視線が痛いくらい突き刺さるが、種類が違う。
具体的には戦々恐々と見守る緊張の視線と、「俺が左王腕と斬りあってるなうで膠着状態なの、わかってンだよなッ?」という視線である。
俺の攻撃を受けていたアゼルはプルプルと震え、ついにギロッと目を吊り上げ、牙をむく。
「ッ、チ……ッなん、でもしてもッ、帰らねえって言ってるだろうがッ! これ以上駄々をこねるなッ、お前が喋るといつも、俺の仕事にいろいろと支障が出る……ッ」
「そんな……っ」
必殺技を用いてしつこく追いすがる俺に、アゼルは初めて声を荒らげた。
支障が出るというのはどういう意味かわからないが、目が血走っているので本気らしい。
どうしたんだろう。本気で怒らせてしまったのか? だとしたら申し訳ない。
視線で『ごめんな、怒ったか?』と伝えるべくじっと上目遣いで見つめると、アゼルはピアスをなでた。怒ってないらしい。よかった。
「俺は今、アマダのそばにいると言っているんだ。それが聞けないならいくらお前でも、それ相応の対応をするしかねぇ」
「!? ぅぐ……ッ」
アゼルは俺を淡々と突き放し、クルクルと鎌を巻き付け、口を塞いだ。
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