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「お前、俺に辞めてほしいんだろ。だったら辞めてやるよ。でも俺が辞めたところで、あいたポジションにお前が入ることはないと思うけど」
「は……」
「それでもいいならやれば。でもお前がセンターになることは絶対、ない」
そのひとことで、ぷつん、と、理性が切れた。
胸ぐらをつかんで押し倒す。振り上げた拳を……でも、どこに振り下ろしていいか、一瞬、躊躇してしまった。別にこいつのことを気遣ったわけじゃない。ぼこぼこにしてやりたい。でも何故かこいつに視線を合わされると、それ以上踏み込めなくなってしまう。
これも……あれか。持って生まれたオーラ、ってやつなのか。
ああ本当に……
むかつく。
「別にセンターになれると思っちゃいねえし、なりたいとも思わねえよ」
しんとした瞳。
「何がしたいか……って? シンプルに、やらせろよ」
心の中で嘲笑っているのが分かる表情だった。でもそんなの、もう気にもならない。嘲笑われることには慣れている。プライドも、守れるとも、守りたいとも思わない。でもとりあえず今、目の前にいるこいつをぐちゃぐちゃにしてやらなきゃ気が済まなかった。
「知ってんだろ。最近監視がキツくてろくに遊びに行けねえから、たまってんの」
「知らねえし。自業自得だろ」
「芸能界引退で済むと思うなよ。今、ハメ撮ってAVに売ってやってもいいんだぞ」
すると観念したように、力が抜けたのが分かった。観念した……フリかもしれない。
そこから先の動きもまた……何か、舞台を見ているようだった。胸ぐらをつかんでいた悠吾の手首に、そっと、六夏の手がかかる。反撃されるかと一瞬身構えたけど、六夏の手に力はほとんど入っていない。ふと見ると、人差し指と中指が、袖の下にするりと潜り込んでいる。一度意識すると、そこが妙にぞわぞわしてきて、自分から手を振りほどいた。
何なんだこいつ。
「たまってんなら、抜くぐらい手伝ってやってもいいけど」
すると六夏はいきなり股間にふれてきた。
正直、びびった。
びびったけれど、ここで引いたら負けだと思った。
跪いて、ベルトをはずそうとしてくる。跪かせて……いるはずなのに。見下ろしているはずなのに。何故か、そんな気がしない。
直接、ちんこにふれられる。背筋がぞくぞくする。手首をさわられたときの比じゃなかった。
ゆっくり、ゆっくり扱かれる。思わず腰が揺れそうになるのを、ぐっと堪える。
不意に緩急をつけられると、あっという間に張りつめてしまった。手コキされたのなんて初めてじゃない。いや、男にされたのは初めてだけど。だから……だからこんなに感じてしまうのか。見知った相手だから。こんなことしそうにない相手だから、余計に……。いや、違う。最近やっていなかったからだ。最近やっていなかったから……だからすぐに感じてしまってもしかたない。
じわ、と滲み出した液体を、人差し指ですくい取るようにされたとき……
駄目だ。
頭の中で警報が鳴り響いた。
六夏の髪をつかんで、一回離れさせる。
「口あけろ」
それだけ言って、躊躇いがちにひらいた口に、一気にねじこんでやった。猶予なんて与えてやらない。
流石にこんなに急にされるとは思っていなかったんだろう。目尻が濡れて光っている。それを見られただけで、スッと落ち着きを取り戻すことができた。
「ん、んんんーっ」
「ほら、歯ぁ立てんじゃねえよ」
熱い。
今まで感じたことないくらいに、熱い。
苦しそうな声を上げているのに、舌の動きは悠吾をねじ伏せようとしてくる。それが忌々しい。
頭をつかんで、がんがん揺さぶってやった。正直、音を上げると思った。けれどしつこく食らいついてくる。時折、きゅっと締めつけられる感覚が、たまらなくクる。ふっ、と漏れる鼻息にも煽られる。
フェラって……こんなだったっけ。
ぎゅうっ、と絞り取られる強さが強くなって、いよいよ追い上げようとしているのが分かった。それが何だか腹立たしくて。でも気持ちよくて。でも主導権だけは意地でもこっちのもんにしたくて。
イく寸前、引きずり込まれそうになったところを、何とか堪えて腰を引く。
えっ、と、六夏が顔を上げた瞬間、その顔めがけてぶちまけてやった。
ぱた、ぱた、ぱた……
白くよごれていく六夏の顔。
その顔を六夏は隠そうともしない。
息はなかなかおさまらなかった。でも、六夏はまばたきひとつせず、親指と人差し指で、前髪に飛んだ精液を拭っている。
不意にちらり、と、覗いた舌が、唇についた精液を舐め取る……
……その様子を、悠吾は思わず、息をつめて見つめてしまっていた。
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