温かい手

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「おやっさん、フォークダンス知ってる?フォークダンス。」 「ええ、知ってますよ。中学ぐらいの時分ですかね。学校でやらされましたよ。あの頃はとても恥ずかしかったですね。」  居酒屋の親父は団体客のビールをピッチャーに注ぎながら、いかつい顔を歪めて苦笑いをして言った。 「でしょ?手なんて繋ぎなれてないの! それこそ幼稚園くらいの頃は気にせず繋いでいたかもしれないけどさ。 いつまでもそんなピュアじゃいられないの。」  思わず吹き出す居酒屋の親父。どうやら俺の言葉が刺さったらしい。 「だからさ、運動会とかのフォークダンス? あれやると、余計に緊張しちゃってさ、血の巡りが良くなるじゃん? ますます手が熱くなるって寸法でさ。」  俺は右の手のひらを反対の手で指さしながら鼻息を荒げる。 「それで女子には『〇〇君って、手がすごく温かいよね』って言われちゃってさ。もう、コンプレックスよ。」 「そいつはァ災難でしたね。」  そういいながらエイヒレを盛り付けた平皿が俺の目の前に置かれた。皿の端にちょこんと鎮座する七味マヨネーズがどことなく誇らしげだった。
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