温かい手

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「けどさ、それもこれも全部迷信のせいでしょ。 "手の温かいヤツは心が冷たい教"の教えでしょ。 布教活動に余念がないよね、もー。」  俺はエイヒレの中から最も小さい物を選んで、それをさらに割く。少ないツマミで呑むための知恵、いわば貧乏性の嗜みだ。 「絶対さぁ、教主は手が冷たい奴なんだよ。 でさ、むかし氷のような手のことを取り上げられてさ、 心まで冷たいって言われたんだと思うんだよ。」  俺は少しばかり同情する。"手の温かいヤツは心が冷たい教"の教主に。 「それでさ、自分の名誉のために有りもしない迷信を作り上げたのさ。 "手が冷たいヤツは、心が温かい"ってね。」  割いたエイヒレをちょびちょびと七味マヨネーズにつけて口に放り込む。僅かな量でも、噛むほどに旨味が広がる。その味の余韻が消えぬうちにレモンサワーを流し込む。あぁ、この背徳感。貧乏酒にさちあれ。
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