温かい手

5/6
前へ
/16ページ
次へ
「ところが、そのとばっちりを食ったのは俺たち、新陳代謝のいい人間さ。 教主は"手が冷たいヤツは、心が温かい"なら、 その逆の"手の温かいヤツは、心が冷たい"に行き着いたんだ。」  大きいエイヒレを割かずに口へ運ぶ。噛みごたえのあるそれはちょっとしたストレス発散にもつながる。 「自分を持ち上げるのでなく、逆の評判を落としてやれ、ってね。 そうやって相対的に自らの地位を上げたのさ。」  居酒屋の親父はあまりに長い俺の話に、いささか呆れたような表情を見せていた。しかし、 「そうですねぇ。まあ今日はその辺にしておきましょうや。」  と言うと、不意に俺の耳に顔を寄せて続けた。 「あたりにそのナントカ教が聞いているかもしれませんぜ。」  その言葉にほろ酔いの俺はドキリとする。そして反射的に首を伸ばしてあたりを見回す。まるで俺は居酒屋のプレーリードッグだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加