冷たい手

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冷たい手

「寒っ」  会計を済ませた俺は店の玄関を開けると、冷たい風が頬を凪いだ。俺は上着の襟の中に首をすぼめるようにして足を一歩出す。その時、不意に踏みだした足が地面からの反発を失い、ぐぃーっと前にスライドする。慌てて俺は後ろ足に体重をのせて事なきを得たが、危うく尻餅をつくところだった。いったい何が起こったのかと足元を見た。  街灯が照らす地面は薄っすらと白く、靴底が描いた不細工な一文字だけがアスファルトの黒色を浮き上がらせていた。  −−雪だ。  今はもう降っていないが、先程まで降っていたのだろう。どおりで寒いわけだ。室内外の寒暖差と不意の出来事ですっかり酔いが覚めた俺はこの後の天気を占うように空を見上げる。冬晴れの夜空からは真っ白な月が冷たい光を降り注いでいた。この様子ならもう降るまい。  今日の予報では降るはずではなかったのだが、とぶつくさいいながら俺は慎重な足取りで駅へと続く道を進んだ。
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