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振り返って、真面目にみのりを見た。くるりと体勢を変え、正面から向かい合う。
「今日のご褒美、くれよ」
夢の続きしようぜ。
シャワシャワと蝉が煩いのも、夢と一緒。いや、寝ててもきっと聞こえてたんだろうな。
みのりは真っ赤になって、口をパクパクさせていた。夢と違うのは、色気のねえ小豆色のジャージを着ていることだ。でもファスナー引っ張り下ろしたらキャミソールかも。おお、男の夢が詰まってんな、ファスナー。
「それはダメです! 皆さんは一緒に戦ってるんですから。一人だけえこひいきできません!」
プンッと怒ったように立ち上がると、みのりは「洗濯物を取り込んできます!」と慌てて逃げていった。
チッ。
やっぱ、夢と現実は違うか。まあいいや。負けた時は慰めてもらおう。その時はきっと、側にいてくれるはずだ。思い切り甘えてやる。
丸いメガネ外して、髪も解いて、色っぽい風呂上がりのアイツを今日も見られる。そんな小さなことに、俺たちはいちいち盛り上がってからかってしまう。
この夏をまだ終わらせたくない。
マウンドでぶっ倒れるまで投げ切ってやる。
俺は氷嚢を、アホで誰よりも頼りになる柏田と同じように、ちょっとだけモヒカン風味に刈った坊主頭に乗せた。
「ホームラン!」
素振りの掛け声が変わった。外でスイングしている部員は、柏田を筆頭に口々に「タイムリー」とか「センター前ヒット」とか口走りながらバットを振り回している。「バント」とか言ってるやつ、誰だ。
ホント、アイツら馬鹿ばっかりだな。俺も多分言うけど。
あー。
逆上せた頭。ひんやりして気持ちいい。
〈おわり〉
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