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「勘弁してくれよ、二回戦に進むんだぞ」
わはははは!
賑やかに笑って、二人は階下にいってしまった。遠くなっていく足音。俺はぽかんとしたまま、奴らの行った方向を見ていた。
なんだ、勝ったのか。
縁起でもねえ夢、見てんじゃねえよ。
はあーっと吐き出した息が無駄に重い。隣でみのりがクスクスと笑っていた。チッ、余裕こいて笑ってんじゃねえぞ。俺は傍に落ちた氷嚢を拾い上げて首の後ろに当てながらみのりを睨んだ。
「負けた夢、見てたんですか?」
「悪いか」
不愉快な俺に、彼女は首を振った。俺は口を尖らせ、窓の方を向いてみのりには背を向けた。
入道雲が青空にそびえていた。俺の好きな夏空。
旅館の中庭から、聞き慣れた仲間たちの笑い声と、それに続くスイングの音。「ストライク、バッターアウト!」とふざける同学年、竹村の声。
バッカじゃねえの? ストライクじゃダメじゃんか。
チームメイトの笑い声。
それがやけに嬉しかった。そっか。勝ったのか。
あの夢と同じように、風鈴が薄いガラスの音を鳴らす。頬を撫でる風。旅館の前を流れる川に冷やされて心地良かった。
「夢の中でよ、みのりが俺を慰めに来たんだけど」
窓の外に揺れる木の葉を眺めながら、ぼやいた。
「お前にキスしてもらった」
「えええっ!? な、なんて夢を見てるんですか!」
もうっ、と荒々しく鼻息を鳴らす。見なくても真っ赤になってるのが分かる。寝ても覚めても、俺の頭はコイツのことばっかりだな。
「なあ」
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