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7-10—最終話 小さな約束—
—そして翌朝、時子は朝食を済ませるといつも通り学校へ向かった—。
珠樹は病院、笙は仕事、悠希人は受験勉強とそれぞれの日常に追われながら、時子の様子を気にかけていた。時子はどうしても父に会いたい気持ちが抑えられなかったので、休日には父に会いに行くことを許してもらった。父の病室を訪れると学校での様子を報告したり、リハビリを手伝ったりしながら、まるで長かった空白の時を埋めるように時子は懸命だった。そんな時子の様子が愛おしく、圭も父としてしっかりしなければという思いを心に強く刻んでいた。
—日に日に良くなり、退院の日が決まった圭は病室を訪れた時子に改まって言った。
「時子やお母さんのお陰で、もうすぐ退院できることになったよ」
「良かったね。でも、お父さんは退院したら、またどこかへ行っちゃうの?」
「ああ、お父さんの仕事はなかなか落ち着かなくてね」
「そう……。じゃあ、もうなかなか会えなくなっちゃうんだね」
「それは……今までのようには会えなくなるけど、お父さんの携帯の連絡先を教えておくから、そこに連絡くれれば、そのうちまたきっと会えるよ」
そう言って、圭は名刺を渡した。
「わぁ、ありがとう。今までは連絡もできなかったけど、これからは連絡できるんだね。じゃあ、必ず連絡するって私、約束するね」
「ああ、時子もこれから忙しくなる一方だと思うけど、何かお父さんに話したいことがあったらいつでも電話でもメールでも連絡待ってるよ。時子の成長をお父さんは楽しみにしながら、仕事、頑張るよ」
「私も頑張る。いろいろなこと」
「お母さんを困らせない程度に頑張れよ!」
「えーっ、今までだって、そんなにお母さんのこと困らせてないはずだよ」
「そうだと思うけど、お母さんは時子は頑固だからって言ってたぞ」
「頑固だからって困らせたりしてないもん。ところで、この名刺に書いてある時田春彦って面白いっていうか、明るい感じの名前だね」
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