喉が渇いた

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夜中に目が覚めた。 隣に横たわる彼女に注意してベッドから抜けだし尿意を解放する。喉が渇いたと感じてキッチンに行くと、冷蔵庫の前に父が立っていた。 「なんだ、いたのか。」 私は父に声をかける。 「ああ」 冷蔵庫の扉を開けたまま、こちらに背を向けて父が応える。キッチンは明かりが点いておらず、庫内からの明かりだけがあたりをぼんやりと浮き上がらせている。 私は流しの蛇口をひねり、コップに水を入れて一気に飲み干した。しばらく沈黙ののち、 「冷蔵庫、いいかげん閉めたらどうだ?」 と父に言う。 「ああ」 相変わらず父は背中を向けたままだ。 「そろそろ戻らなくていいのか?」 と父に尋ねる。 「ああ」 そう言って父は青い光の中にぼおっとしている。 「じゃ、俺はまた寝るから、後はご勝手に。」 そう告げながら冷蔵庫を閉め、私は部屋に戻った。 ベッドに入り、無反応なままの彼女の身体を後ろから抱きしめて思う。 「ああ、ひんやりして心地好い」 翌朝、夜勤から戻った妻は、三つの死体を発見した。
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