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第三章 光と影
私の育った家庭は裕福ではなかった。音楽家の祖父も、たくさん稼いでいたわけではない。
伯父は奨学金で神父になり、私も同じだ。
お金がなくても、温かみのある家庭だった。毎週の週末は家族で近所の教会に通い、私はそこの教えをそのまますんなり受け入れて育った。
私にとっては神も信仰も教会も、あって当たり前で、存在して当然で、神学校に入るときも悩むことはなかった。
そういう自分のほうが少数派で、世間では変わり者なのは分かっている。
一般社会からはぐれたような自分が、人の悩み事を聞いたり、奉仕活動をしたりしている。
ケヴィンは実家の父親とうまくいかなかったと聞く。
私は彼のように神の顕現を待っているわけでもない。期待しているわけでもない。
神がいるというはっきりした証拠が欲しいとケヴィンは言う。
正直に言うと、無謀だと思う。
でもいつも、ケヴィンは困難を情熱で突破してきた。学生時代の成績だって悪くなく、私に負けずトップクラスだった。
彼の心には温かい人間味があって、愛嬌がある。それが人を惹きつけ、周りの人や視聴者に愛されている理由だ。
比べてしまうと、果たして自分の人生はこれでいいのか、と疑問に思う。
よく人から言われるのは、真面目、堅物、優等生。
頑張って日々の奉仕をして、それで精一杯でいいんだろうか。教会のミサ、病院の訪問、カウンセリング、教会学校の講師。
毎日忙しくしていても、現代の教会離れは止まるわけじゃない。
ヨーロッパの教会はしだいに廃墟になっている。バチカンはいつも騒がしい。イスラエルで起きるテロだって止まらない。
世界には多くの悲しみがあるのに、自分に出来ることは小さな日常や、ささやかなことばかりだ。自分の小ささはどうしようもない。
35歳、神父としてやっと自分は一人前になってきたところだ。だが達観した成熟への道はまだまだ遠い。
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