第一章:神父ジェームズ

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第一章:神父ジェームズ

 ここは米国ペンシルバニア州、古都フィラデルフィアの旧市街にある、聖ジョセフ教会。18世紀に建てられたこじんまりしたローマ・カトリックの教会だ。広々としたばら園が近くにあり、全体は赤レンガ作りで、小さな中庭には小鳥も飛んでくる。  窓の外の5月の空は晴れて暖かく、澄んだ空が見えていた。今は春まっさかりだ。  米国の東海岸は長い冬が終わり、4月の雨の多い時期も過ぎた。  若葉はここぞとばかりに伸びさかり、教会の中庭の植木鉢には、白い花が陽を受けて輝いている。  教会に付属して建てられた居住区の居間には、古いテレビがあった。  そのテレビの前で、3人の聖職者が座っていた。  私、神父服のジェームズ・アンダーソン。ニューヨークから来たスーツ姿のケヴィン神父。黒い修道服のシスター・マーガレットだ。  それぞれコーヒーカップを手に取り、テレビ前のソファに座ってお昼の放送を見ていた。  ローカルな、クリスチャン専門チャンネルの放送だ。  テレビの中には黒髪長身の、黒の神父服を着た男、つまり私が映っている。  放送されている自分は、なるべくカメラを見ないようにして、少々戸惑った様子をしつつ話していた。 『これが聖クリストファーの油絵。15世紀の作品です。同じものがフィラデルフィア美術館にありますが、作者はヤン・ファン・エイクとも、違うとも言われています』  教会学校の子どもたちに向けて、絵画の解説をしていた。手に持っている小ぶりのレプリカの絵画は、幼子キリストを背中に背負って、杖をつき川を渡ろうとしているたくましい男の絵だ。    なんと下手くそな語り!私は自分を見ていて辛くなった。  一方、私の隣に座るケヴィン神父は、慣れた感じで番組を見てた。  彼の本名はケヴィン・ロドリゲス。茶髪に明るい茶の瞳の、私の神学校からの友人だ。  物静かと言われる私と違って、ケヴィンは陽気で情熱的で、神学校卒業後は出版やテレビ伝道を通じて有名人になった。  この撮影のときは、ケヴィン神父の突発・教会訪問!という名目で、テレビの撮影隊が突然やってきた。私の赴任する聖ジョゼフ教会へだ。  事前に私に伝えたら逃げるから、という理由で事前通達なしである。    
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