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はじまり
映画かドラマのワンシーンを見ているようだった。
目の前で繰り広げられる非現実的な光景に、驚いて立ち止まる。
「誰か──」と消え入るような、年配女性の震える声と自転車が倒れる音、どこからか、数多くの悲鳴。
四十代くらいの体格のいい男と他数名が、逃げる若い男を追いかけている様子が、目に飛び込んできた。
ここからは近付ける距離ではないけれど、周りを通り過ぎる人たちも、なんだなんだとその様子に目を奪われた。
逃げる男が向かう方向のコンビニから、
一人の女性が出てきた。
気づいているのか? ……いや、おそらく気づいていない。
危ない、誰かその女性を止めてくれ!!
そう思った瞬間、
「そいつを捕まえてーー!」と、追いかけていた男の一人が叫んだ。
その声に女性が反応する。
いやいや、無理だろ、どう考えても。
男の手には、年配の女性から奪っただろうバックと一緒に、光る凶器らしき物が。
ナイフだ! 男はナイフを持っている!
次の瞬間、女性が素早い動きで何かを仕留めた。
男が持っていた凶器は歩道に転がり、動転した男は、素手で女性に襲い掛かろうとする。
その殴ろうとした右手を払い左腕のシャツを引いたかと思うと、護身術だろうか、相手の体勢を崩し、蹴りを放った。
腹と顎辺りに攻撃を食らった男は、その場で動かなくなった。
そこにようやく追いかけてきた体格のいい男とその他数名が到着した。
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