【22歳 夏~】

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 目が合いそうになり、翔にそっと視線を外される。机の側面に胸の打ち身が当たってしまい、鈍い痛みが駆け抜ける。なんとか痛みをこらえながら、響は咳払いでごまかした。 「できました」  学人がノートを寄せてきたので、受け取って解答を見ていくことにする。まず問題集と照らし合わせてから、計算式を改める。黙読しながらペンの背でなぞり、最後の答えに辿り着く。 「うん、教えた公式からちゃんと導き出せてるね」  微笑んで、答えに赤で丸をつけた。すると呼応したかのごとく学人の顔も紅潮し、笑みに綻ぶ。 「ありがとうございます」  頭を下げてくる彼に、響はいえいえと返す。だがすぐに、学人はもじもじとなにか躊躇う様子をみせた。 「どうした?」 「いや……なんか僕の方にしか得にならないんじゃないかと思って……お礼しなきゃいけないのはこっちの方なのに」  申し訳なさそうに言って、学人は持っていたペンを手の中で転がしていた。明光ゼミナールと印字されたロゴマークが消えたり現れたりを繰り返す。響は指先に表れた彼の不安を、ふいに拭ってやりたくなった。 「そんなことないよ」  ぽつりと零れた響のつぶやきに、ペンが止まる。明光という文字がぴたりと上面に向いたまま光に反射して輝いていた。
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