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「さっき言ってた通り、俺、教師になりたくてさ。でもなかなかなれそうもない状況で、落ち込んでたところだったんだ」
響は自分の手元にある赤いペンを見つめて、今一度丸をつける感触を思い出す。
「だから、正直こういうふうに先生っぽいことできるの嬉しくて、すごいありがたい」
すごいのす、に力が込もって、紙とペンが擦れるような爽快な音になる。その音で、放課後の教室で一つの机に向き合ってあいつに勉強を教えていた記憶が脳裏に思い起こされる。あの頃あの時だけが、自分を認められるかけがえのない時間だった。
「こちらこそやらせてくれてありがとう、って思ってるくらい。だから、いいんだよ」
微笑むと、学人は安心したような表情になって、うん、と頷いた。
「先生」
ふいに聞こえた慣れない呼び名に、無意識に顔を上げる。翔がノートを軽く掲げて響を見つめていた。
「俺のも採点して」
先生、その声はからかうようなニュアンスも半分孕んでいたけれど、そんなことは響にはどうでもよかった。憧れた人と同じ呼ばれ方で、自分を必要としてくれる人がいる。それだけで、涙が出そうなほど胸がいっぱいになった。
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