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玄関から出た瞬間、むわっと暑さが肌に纏わりついて、汗が噴き出してくる。見上げると日光が容赦なく降り注ぎ、頭を熱してくる。響は袖を捲りたくなる衝動に駆られたが、思い止まって首もとのボタンを一つだけ開けた。
うだる暑さにうんざりしながらも先行く翔の後を追う。敷地を出て一本道に入ると、やはり田園風景しか広がっていなかった。市街地は100メートルぐらい先にジオラマのような小ささで見える。道のりの遠さか強い日射しに晒された影響か、だるさがぶり返し、節々の痛みがじわりと身体を侵食する。頭痛の種が目の奥を突く。遠くの街がゆらゆらと蜃気楼に揺れていた。ぼやけては明瞭になるのを繰り返す。次第に痛みも遠退いていく気がしてくる。このまま溶けてなくなるかもしれない。それもいいかもな。ぼんやりとそんなことを考えていると、ざり、と靴底がコンクリートと擦れ合う音が近くでした。はっとして、翔を見る。先ほどまで前を歩いていた彼はいつの間にか響の隣を歩いていた。厳密に言えば半歩前だったが、それが一歩、一歩、進む度に歩調が合わさっていく。黙って歩く横顔が涼しげに風を切っていく。けれど時折、窺うようにこちらに投げられる瞳が強く陽の光を湛えて、世界の輪郭をはっきりさせる。田んぼの中で息をする緑の匂い、どこかで流れる水路のかすかなせせらぎ、清々しく拓けた夏空。さっきまで注視していなかった景色の一つ一つに心が動かされていく。
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