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「え~翔やん、お願いだよぉ~。ついでに英語の課題も写させて~」  どさくさに紛れてお願いが追加されていることにも呆れながら、面倒くさくなって窓の外に目を向ける。  目の前に見える木はほとんど葉桜になっていて、隣の小学校を覆うように緑が生い茂っている。ところどころに見える淡いピンク色がこちらをひっそりと覗いているようで可愛らしくもあった。  奢らないにしろ、弁当は少し分けてやろうと考えつつ、鞄から教科書やらを取り出して支度を始めた。だが、光が鞄を左右に振り回しながらまだ駄々をこねてくる。やっぱり昼休みは空きっ腹のまま放置してやろう。  無視したまま光から鞄をひっ剥がそうとした時、半端ない声量で「王崎」と名前を呼ばれる。声のする方を見やると、担任教師の後藤(ごとう)(あらし)がこちらに近づいてきていた。 「あー! 嵐せんせー、おはよー!」  俺が答えるよりも先に光がご機嫌に両手を挙げて挨拶する。と、俺の鞄を掴んだまま逆さまにして、全ての荷物を床に盛大にぶちまけた。 「おい」  低い声で囁き、光を睨んだ。光は口の端をひくつかせて、あはは、と冗談めかすように笑う。怒りのあまり、もう一睨みすると、すばやく荷物の回収に移った。 「ごめん、ごめんって。わざとじゃないから許して? ね?」  ヘラヘラ笑い続けながら光は教科書を集める。せっかく整理されていた教科書を教科も何も考えず乱雑にまとめる姿と、反省の色がまったく見えない表情に腹立たしさを覚えながらも荷物集めに加勢した。  クリアファイルに入れられていたプリント類も中身が全て飛び出ていて、足下一帯を白く染めていた。その書類をわしゃわしゃと雑に集めながら、「堺は朝から元気だなー!」と後藤が拡張器でも使っているんじゃないかと思わせるほどでかい声で言った。あんたもだろ、と二倍になった腹立たしさを抱いて心の中で毒づきながらも、光が集めた教科書をふんだくって再び教科ごとに整理し直す。後藤の分もふんだくってやりたかったが、やめておいた。すると、後藤は右上にホッチキスが留まった書類を掲げて 「あ、これ、受け取っておくな」  と言った。どうやら目的は奨学金関連の書類だったらしい。その他の書類が収められたクリアファイルを手渡してから後藤は教室を去っていった。
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