【24歳 夏】

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 目と鼻の先に、十六歳の少年がいた。  白いYシャツに濃紺のスラックス。なんの変哲もない制服姿。だが、彼のシャツの左襟元から肩にかけて、べっとりと血がついたように真っ赤に染まっていた。  彼を見留めた瞬間、青年の息がひゅっと小さく鳴って、止まった。瞳孔が怯えの色を濃厚にさせつつ、大きく開く。 「よく、来たね」  少し甘さの残る少年の声がたっぷりと得体の知れぬ余韻を含んで紡がれる。彼はゆっくりと口の端を上げて、不気味に微笑んでみせた。端整な顔にはめられた双眸が、黒い光を湛えてじっと、青年だけを見据えている。 「どの面下げて?」  鋭く陰の色を深める声色に、青年の呼吸はいっそう乱れ、身体の震えは激しくなっていった。少年の声と鼓動が共鳴して、不協和音を耳に響かせる。その反応を楽しんでいるかのように、少年は追い討ちをかけて言葉を紡ぐ。 「自分だけが、幸せになっていいと思ってるの?」  言葉とともに視界が脈を打ち、青年の顔からは色が失われていった。波打つ少年の肩からぬるりと赤が這い出て、奇妙に蠢きながら×印を形づくる。鼓動が響く度、それは大量に産み出され、瞬く間に視界が真っ赤に埋め尽くされた。狂いそうなほどの一面の赤が黒色に吸い込まれていく。  意識が、燃え尽きる寸前の夕日みたいに暗闇に引きずり込まれていく。  朦朧とする中で腰砕けになった身体を支えてくれている腕のぬくもりもおざなりにして、青年はただ眼前の恐怖に囚われていた。  隣で手を添えてくれていた少年の声が微かに滲んで遠退いていく。 「兄貴、しっかり! 兄貴! どうしよう兄ちゃん」
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