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【24歳 初夏】
蝋燭の灯りが柔らかに暗闇を照らしていた。『翔くん誕生日おめでとう』と書かれたプレートが乗ったワンホールのショートケーキと、1と5の数字を象った蝋燭。そして、それを挟んで座っている響と翔の姿がオレンジ色に染まったまるい光の中に浮かび上がっている。
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー」
響のぎこちない歌声が小さな雨音の中で囁くように紡ぎ出される。合わせて叩かれる手拍子の風で、灯りの円がわずかに歪んでは元に戻るのを繰り返していた。
「ハッピバースデーディアしょーぉー。ハッピバースデートゥーユー」
等間隔の乾いた音が、まばらになって拍手に変わる。ガラス戸に打ちつける雨音は、拍手と重なってささやかな抵抗も与えられず掻き消された。響は誕生日おめでとう、と笑顔を向けた。だが、それに対して翔は不機嫌そうな表情で見返している。それに気付いて、響は手を止めた。
「どうかした?」
最初は言い淀んでいた翔が頭を掻きながらつぶやく。
「いや、なんか……こんな子どもっぽい祝い方されるとは思ってなかったから。俺ってそんなにガキに見られてるの?」
響が絶句した瞬間、世界から事切れたように沈黙が押し寄せる。雨だれの音と、灯りの円だけが生き物のように小さく揺れ動いていた。
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