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やがて響は俯いて、沈黙にぽつりと言葉を落とした。そっか、子どもっぽい、か……。
「俺、家で誰かの誕生日を祝うなんて初めてだから、うれしくて、一人で勝手に舞い上がっちゃって……」
テーブルの下で指をまごつかせながら、自嘲じみた声でつぶやく。あたたかな色に照らされた耳がほのかに色を強くしていく。
「全然、子ども扱いしてるつもりじゃないんだ。嫌な想いさせたなら、ごめん」
電気つけるな、となるだけ明るく言って立ち上がり掛けた時、別に、と遮るように翔の声が飛んできた。
「嫌とは言ってないじゃん。俺だってもうそんな子どもじゃないから、もっと頼りにしてほしいなって思っただけ。てか、嬉しいに決まってんだろ」
胸に温かさが込み上げて、少し苦しくなる。響は思わず翔の名前を呼んだ。翔のそっぽを向いたままの顔が響と同じようにうっすらと赤く染まっていく。照れくさかったのか、翔は勢いよく息を吐き、蝋燭の火を消した。
瞬く間に闇に包まれて、何も見えなくなる。何も見えないのに、響は不思議と恐怖を感じなかった。
翔のいるであろう場所に向かって、ありがとう、とつぶやく。
ぼとり、大きな雨粒が落下した後、すん、と鼻を鳴らす音が微かに聞こえた。本当は嬉しいのにムキになって口を尖らせている表情が自然と目に浮かぶ。
「電気つけるな」
「転ぶなよ」
「うん」
翔の言葉に微笑みながらも、今度こそ本当に立ち上がって照明のスイッチを点けにいく。手探りに壁を伝って、指に触れたスイッチを押した。
明るくなった瞬間、翔の方を振り返る。途端、響は息を呑んだ。
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