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情けないほど震えながら響はそう口にしていた。
最初はきょとんとしていた翔は、途端に顔を綻ばせて呆れたように鼻で笑った。そんなことでいちいち泣いてたら切りないだろ、と吐き捨てる。だが、声の調子に嘲笑は含まれていなかった。むしろあたたかささえ感じる。その余韻があまりにも優しく聞こえて、響はまた泣き出してしまいそうになった。
「ほら、ケーキ食べよう」
翔が綺麗に取り分けられたケーキの皿を響の前に置く。一度大きく息を吐いて、響は涙を拭った。そして、うん、と笑顔で答える。
それから残りのケーキを自ら片付けようとしていた翔を座らせて、響が役をかって出た。二つの皿にラップを掛ける。
すると、どこかでバイブ音が鳴った。翔はポケットから携帯電話を取り出すと、画面を見て少し嬉しそうに笑う。
「美紀姉からだ」
そう言うと翔は電話に出ながら席を立った。響から目を背けて、部屋の隅に歩いていく。
明はまだ、離れていく翔を愛おしそうに見つめていた。
その様子を静かに見つめながら、響はもう一つのケーキを明の前にそっと置いた。
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