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 微睡みの中で、運動部の掛け声と吹奏楽部の楽器の音が鮮明になっていく。目を開けると、放課後の教室が見慣れたアングルで視界に飛び込んできた。隣の席では光が小躍りしながら帰り支度をしている。しばらくぼんやりとその様子を眺めていたが視線に気づいたのか、光はこちらを振り向いた。 「あ、翔やん、やっと起きた」  あくびをしながら身を起こすと、教室内がうっすらと夕日色に染まっていた。帰りのショートホームルームの間だけのつもりがすっかり寝入ってしまったようだ。投げかけられた橙色が並べられた机の上にやわらかに降り注ぐ。あたたかい色に睡眠欲求が刺激されて、またあくびが出た。 「なぁに? 翔やん。昨日夜更かしでもしたの?」  光の言葉に思わず眉間に皺を寄せる。無言で睨みながら、好きで起きてたわけじゃねぇよ、と心の中で毒づいた。それを本当に口に出してしまえばあれこれ訊かれるに違いないので、あくまで沈黙を貫く。
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