19人が本棚に入れています
本棚に追加
その時、ポロン、ポロン、と零れ落ちるようなピアノの音がどこからか聴こえてきた。
ドドソソララソ、ファファミミレレド。
一音一音を確かめるようにゆっくりと弾かれるきらきら星。
ソソファファミミレ、ソソファファ。
滑らかに奏でられていたメロディが、次に来るミの音で出遅れ、たどたどしくなって、でもすぐに元の調子を取り戻す。その危なっかしい旋律には聴き覚えがあった。
小躍りしながら紙袋を開けている光を置いて、音を辿っていく。案の定、そこにはピアノを弾く兄貴の姿があった。いつも猫背になっている背中は、針金が通ったようにしゃんと伸びている。あの頃から変わらないなと心の中で笑いながら、俺は兄貴に声を掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!