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着替えを終えてリビングに戻ると、兄貴はすでに台所に立って夕飯の支度を始めていた。
野菜を切る音、油が広がって弾ける音、炒め物のこうばしい匂い。
それらを感じながら、俺は箸を並べたり、お茶を用意したり、出来合いの惣菜を皿に盛りつけたりした。
美紀姉がいない時はたいてい料理するのは一品で、あとはスーパーかどこかで買ってきた出来合いのもので済ませる。
今日は和風のあんかけソースがかかったハンバーグとレタスが基調のサラダ。今作っているほうれん草とベーコンのソテーに、ごはんと味噌汁を添えたら今日の夕食の完成だ。
それからいつもどおり向かい合う席に座って夕飯を食べ終えると、今度は俺が皿洗いをするためにキッチンに立つ。兄貴はいつも洗い物が少なくなるように気を遣って、個別ではなく大皿におかずを盛ってくれる。なので、洗い物はわりとすぐに済んだ。
食卓に腰掛けて一息つくと、モーツァルトの旋律が耳に入ってきた。皿を洗っている間に兄貴がつけたのだろう。テレビのついていない、静かな部屋に密やかな音が紡がれる。しばらくその音に聞き入っていると、あたたかいお茶が入った湯呑みを目の前に差し出された。
「お疲れ様」
兄貴の穏やかな声が音楽に寄り添うように発せられた。そして俺の向かいに座り、両手でゆっくりと湯呑を包む。俺はズズズと音を立ててながら、入れてもらったお茶を啜った。
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