1-2

1/13
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ

1-2

 美紀姉が家を出た後、程なくして兄貴も出勤し、最後に俺が戸締まりをして家を出る。片道三十分電車に揺られ、何事もなく高校の門をくぐった。 「翔やん、おっはよー!」  教室に入ると、聞き慣れたうざったいほどハイテンションな声に出迎えられた。軽くあしらいつつ、声の主の隣の席、窓際の最後列の席に腰掛ける。 「翔やん、今日俺より来るの遅かったから購買のパン奢りね!」  変な呼び方で声をかけてくるのはこいつしかいない。幼馴染みの堺光(さかいひかる)だ。能天気に寝言を言っているが、そんな約束はしていないし、奢ってやるつもりもない。余裕綽々としている光を一瞥して、俺は一言浴びせた。 「お前に奢る義理はない」  そう一蹴すると、案の定、光は情けない表情になって、すぐさますがり付いてきた。 「えー! そりゃないよ! 十年くらい同じ釜の飯を食った仲じゃん!」  そうなのだ。光とは施設で暮らしていた時からの仲で、お互いに養子にもらわれてからも家が近く、何の因果か十年間同じ学校同じクラスになっている。腐れ縁にもほどがある。こいつはお調子者で調子に乗るとすぐまとわりついてくるので、正直鬱陶しいほどだった。 「給料日前で金欠なんだよ、お願い~!」 「どうせまた無駄遣いしたんだろ。自業自得だ」 「そんなこと言わないでさ~、お願いっ!」 「知らん。勝手に腹空かせてろ」  光は近くのコンビニでバイトをしているのだが、給料日前はいつもこうして昼飯代をねだってくる。玉砕するのは当たり前なのに同じ事を繰り返す打たれ強さは見習いたいものだが、たかられる側としては迷惑千万だ。俺は兄貴の体調が心配で極力家にいるようにしたいので、採点バイトや内職をしているから、金を持っていると思っているのだろう。  口が軽いからこいつには一生言わないが、実は兄貴の体調が不安定な時は内緒で給料を家計の足しにしてもらっている。(もちろんそんなことをしていると知ったら兄貴が気に病むので、本人には言っていない)なので、今は他に使う金なんて無いに等しかった。と言っても基本こいつに金を貸す気なんてはなからないのだが。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!