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俺と一緒に暮らすようになってから仕事量が増えたこともあって兄貴は体調を崩しがちになり、もう施設に通うことはほとんどなくなった。
まっすぐに兄貴を見る。兄貴はこちらを向いて、応えるように微笑んだ。
「帰ろうか」
細められた眼の下には薄く隈が浮かんでいる。上げられた口角の力は弱々しく、あの頃よりやつれているように見えた。そう思う度に、いつも暗い思考が頭を過る。本当は、兄貴はまだ先生をやっていたかったんじゃないだろうか。俺の存在が兄貴に望まぬ生活を強いらせて、無理をさせているんじゃないか。
胸の奥で鈍い痛みが広がる。それが罪悪感から来る痛みだということはもうとっくにわかっていた。それでも離れることができないでいるのは、兄貴のそばにいたい。そんな独りよがりな理由だけだった。
「あ! 響さん、昨日ぶり~!」
能天気な声が聞こえて、思考の海から引き揚げられる。突進する勢いで兄貴に絡もうとする気配を感じて、俺は光の首根っこを掴んだ。
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