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返事も浮かばない夫。
「もう勤務医はしていないの・・・
わたくしの父の跡を継ぎましてね、
それなりに身持ちの堅い看護師さん
達に働いて戴いてますのよ」
広く開いた彼女の胸元に
一瞥を添えておいた。
夫もこの女も
自分達の一年ほどの戯れを
私に気づかれてないと
思っていたのだろう・・・。
女は憎々しげに私を見てから
「先生、じゃあ、またあ」
甘い声だけ残して去った。
蒼い顔の夫に腕を絡め、
「いきましょう」
促した。
「何を食べましょうか?」
何事もなかったように歩く。
でもしばらくして・・・
「ああ・・・でも・・・せっかくだから
なにか・・・」
悪戯のばれた“少年”の
歯切れ悪さが・・・少し可笑しい。
「指輪でも買って下さる?」
軽い慰謝料くらいは
戴いておくことにしよう。
ー 了 一
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