残  照

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繁華街から徒歩十分で 戦火からも逃れた古家が続く。 最近はリフォームをして 古民家カフェや雑貨屋などで 有名になってる通り。 「この五軒分が灘島百合子さんの  所有地で、その賃貸収入と  企業へ出向いての英会話講師  としての所得で生計をたてて  おられました」 なるほど、さすがは不動産屋の 娘やなあ、手堅い資産やと 思いつつ、部屋を眺める。 「綺麗に住んではったんや」 母が納得する一人住まい。 「独り?叔母は一人暮らし  でしたか?あの、男性が  一緒とか・・・」 少し祖母や母に遠慮しつつ質問。 「そうです。こちらへ来られて  二十数年、ずっとお一人です」 それから遺言状と祖母宛の手紙を 坂井さんはテーブルに置いた。 それを確認するために 私達が椅子に腰掛けたときだった、 「なんで・・・?なんで  こんなとこに、あの人の・・・  主人の花が・・・・・」 祖母の言葉に小さな庭を見ると 日陰に紫蘭がポツポツと 並んで咲いていた。 「三十年近く前にここを  購入されましたのは  灘島周五郎さんです」 「 ええ!!? 」 祖父の名前に三人揃って 声をあげた。 「あ、あの、ああそうや!  手紙・・・百合子の手紙」 祖母は震える指で手紙を開封・・・。
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