刹那の花

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不馴れな酌で一杯、 細い白い指に触れると カタカタと震える女・・・。 「最近なのか?  廓にきたのは?」 なるたけ淡と尋ねた。 「・・・はい」 声まで消え入りそうだった。 道理で素人っ気が抜けない たどたどしい酌で二杯。 「ここは・・・この店は  この界隈じゃあ、人間  扱いしてくれるから  よかったかも・・・  いや、すまない・・・  “売られる“ような立場に  なって・・・よかったも  ないもんだ」 「いえ・・・私みたいに  いつまでも客あしらいの  覚えられない女でも  置いて貰えるのは奇跡だと  他の姉さん方も  おっしゃいます・・・」 『おっしゃいます』の言葉が 府に落ちる女の顔を 改めて見てみる。 東京あたりの世間知らずな娘が この大阪まで売られてきたのか、 なら、なおのこと “憐れ“が先に立ってしまって ただの商売女との付き合いと 割り切り難い・・・。 そんな響子に初めて逢った 昭和十九年の晩秋だった。  
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