刹那の花

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『響子』という名は あとで知った。 店では『ゆきはな』と。 巧く名付けたもんだ、 納得の儚さ。 大男の俺の身体に スッポリ入る小さな“ゆきはな“、 馴染みの客も少なかろう愛戯に 退屈は否めない。 けれども、長らくの外地で やや厄介な国の仕事を させられていた俺は 不覚にも“事“の途中で 寝入ってしまい、 目覚めたときには もう陽が高かった。 「お食事、召し上がりますか?」 襖の向こうでゆきはなの声。 この店は、女達が各自、 六畳・三畳の二間を 与えられていて、 六畳の“客間“で高いびきの俺を 隣の小部屋でゆきはなは 窺っていてくれたのだろう。 「すまなかった。  君は眠れなかったのでは?」 「いいえ・・・泊まりの方なんて  私には初めてだから・・・  助かりました」 謙虚な笑みが美しい・・・、 泥に咲いた花一輪。  
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