刹那の花

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「最近もっぱらここだと聞いた」 同僚が廓に訪ねてきた。 そうだ、もうほとんど 家のようにゆきはなの部屋。 心得たるゆきはなは 「御用があれば  声をかけて下さい」 酒の用意だけして 部屋を出た。 ゆきはなの気配が無くなると 「どうした?帰国して  仕事が嫌になったか?」 同僚に問われて 「俺達がどうこうしても  軍は戦いを止めないし  ・・・いずれ日本は  負けるだろう・・・」 つい、本音が出た。 俺の仕事は なんとか穏便なる 戦争終結の脚本を書くこと。 政府の中枢では もう負けを見越して 敗戦準備をしようとしている。 なのに、 「『火の玉一丸、敵を蹴散らせ』  ・・・か・・・笑わせるな、  火薬にも事欠くのに」 廓にまできていた戦意高揚の チラシを見て、同僚は笑った。 「俺が書いたものを  一部の大臣が提言しても  軍は突き進むだろうよ、  国民が、それこそ全国民が  “火の玉“になるまで」 俺は政府にも 日本にも嫌気がさしていた。
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