刹那の花

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同僚が帰ったあと、 しこたま呑んだ。 呑んで、呑んで ゆきはなを抱いて 俺は自分に嫌気がさした。 「戦争さえなけりゃ  お前のように聡明な女が  こんなハキダメに暮らす  ことはなかったろ?」   物腰も、書く字を見ても、 少々の教養のあるゆきはな。 「戦争さえなけりゃ  好きな男の妻に  なってたんだろうに」 つい、口から出た。 俺は三畳部屋の箪笥上にあった 若い男の似顔絵を 偶然見てしまっていた。 何枚も何枚も 朗らかに笑う男の顔。 想う心がなかったら あんなに輝く瞳は描けない。 (嫉妬してるな・・・) 認めてしまうと もうどうしようもない。 「そんな男は忘れて  俺のものになれ!」 乱暴にゆきはなを 蒲団に転がせて 愛の悲鳴をあげさせようと 躍起になって もがいて、もがいて ゆきはなを汚して また、自分に嫌悪した。
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