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頬にポタリと雫・・・
「どうした?」
起き上がると
ゆきはなは素早く
正座に指をついて頭を下げた。
「こんなつまらぬ女に
数々の情けを・・・
ありがとうございます。
こんなによくして戴いて
いるというのに・・・
あなた様がここに長居を
して下さるだけでも
どんなに、どんなに助けられて
いることやら・・・
それでも、それでも
私は、あなた様の御厚意を
受けるわけには参りません」
畳に額を付けた身体が
震えていた・・・。
「好きな男がいるからか?」
箪笥の上の男の似顔絵に
つい、視線がいってしまった。
「 ・ ・ ・ 」
「男はどこにいる?なぜ
お前を迎えに来ない?」
「戦地です・・・その人は
父が高利貸しに騙されて
私が大阪に売られたことは
知りません・・・」
「そうか・・・父親が騙されて
・・・・ここで、ずっと
男を待つというのか?」
ゆきはなの身体は暫く
静止していたが、やがて
俯いたまま、首を横に振って
「いいえ・・・」
幽かな声で、答えた。
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