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汽車の都合がままならず
尾張で一泊、昼には大阪。
繁華街はバラックながらも
覚えのある生きのいい関西訛りが
敗戦の陰を吹き飛ばしていた。
手紙の住所を手繰って
路地を進むと喧騒は薄らいで
うっすら耳に入ってきたのは
少女の唄う見知らぬ土地の子守唄。
「少し尋ねていいかな?」
少女に声をかけた後ろから
「及川さん」
俺を呼んだのは直嗣。
「その端の家ですよ」
ゆきはなの部屋に案内されて
「肺の痛みが酷いので
強い薬を使っています。
眠っているときが殆どで
起きているときは・・・」
「 ? 」
名ばかりの玄関を開けると、
いきなり見えたのは、
布団の上で人形のように
虚ろに座るゆきはな・・・。
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