刹那の花

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「ゆき、」 「及川さん、源氏名はもう、  忘れていると思います」 「忘れ・・・?」 ここで 「おいでやす」 初老の女が茶を運んできた。 「ゆきはなちゃんの御贔屓さん  でしたやろ?ようお訪ね戴いて」 そうだった、彼女は 食事や女達の手配に雇われていた 見覚えのある女。 「若ぼん(直嗣)のおかげで  店を閉じてからは何人か、  この長屋で飯屋をやりながら  お世話になってます」 「ゆきはなの面倒も  看てくれていると?」 「そんなん、当たり前ですよ。  あの子にはみんなようしてもろた。  ホンマに優しい娘やあ・・・  なあ、優しいあの子が・・・  やっと平和になったのに  こんな所で"死に待ち"なんて」 女は袖で涙を拭いた。 「廓を閉じてからは皆、  昔の、本名で呼んでます」 そう言った直嗣から 一枚のゆきはなに関する 書類を見せて貰った。 東京の住所と名前、 ゆきはなは "響子“ さん。    
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