刹那の花

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声もかけれず終いで ゆきはなの部屋を出た。 煙草を摘まんだら 直嗣が火をくれた。 「申し訳ありません」 「・・・なんの、君が  謝るようなことではないさ」 二人して沈黙。 一本消してから 「あの書類にあった  ゆきはなの東京の住所に  連絡はいれたのかい?」 「はい・・・でも」 「連絡なしか・・・・  空襲で家族は死んだのか、  或いは・・・」 『完全無視』その言葉は 俺も直嗣も出さなかった。 廓ではよくある話、 都合で娘を売って 都合で存在を抹殺、 ・・・よくある、ありすぎる話。 「ゆきはなは"待ち人“が  いるはずなんだが」 「それもまったく判りません」 「生きているやら  死んでいるやらか・・・」 二本、三本と煙草が 消えてゆくたびに 思い出される似顔絵、 ゆきはなが部屋で こっそり描いていた恋人の 笑顔の優しい似顔絵。 (あれが俺であったなら) 実らぬ想いに日は暮れた。
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