刹那の花

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直嗣や女達の配慮で 長屋の一部屋に世話に なって三日・・・・・ ゆきはなの衰弱は進んだ。 ゆきはなの部屋には入らず 彼女の部屋の雪見小窓から 遠目に様子を窺う・・・。 (未練が過ぎるじゃないか) 自分に何度も言い聞かせて 東京へ戻ろうとする理性と いっこうに動けない感情。 あの生きるか死ぬかの動乱に 心に咲いた一輪の花が 今、夜露に消えるというのなら 俺の恋の最後を見届けよう じゃないか・・・なんて いいきかせたり・・・。 いや、なんだかんだの片恋でも 俺はゆきはなが好きなんだ。 彼女の記憶に俺がいなくても 俺は彼女から離れられないんだ。 薄れゆく意識の中で ゆきはなは幸せな夢を みているのだろう・・・、 幽かに譫言が聞こえる。 「よしさん・・・  芳介さん・・・・・  ・・・・春には・・・・  真っ白の・・・・・花嫁衣装を」 世話をしている娘の 咽び泣きと、好きな男の名前が 胸に杭を打ち込む・・・・。  
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