刹那の花

21/25
前へ
/485ページ
次へ
公用車を無理矢理使わせて 同僚は京都の実家へ。 深夜には 「具合のいいことに  なんと、終戦前に  注文主が取り消した  白無垢が店に残ってた」 仏の最後の慈悲なのか ゆきはなの望んでいた白無垢は 臨終の床に間に合った。 女達がゆきはなの蒲団の上に 白無垢をふわりと・・・。 病んでなお白い顔に白無垢、 ゆきはなの清廉、そのもの。 俺は医者や女達の陰から 黙って見守るだけ・・・。 昏睡にあったゆきはなは うっすらと瞼を開けて 最後の力を振り絞るような 小刻みに震える手で  白無垢の感触に微笑んだ。 「・・・・・芳介・・・さん  芳・・・・すけ・・・さん、  は・やくぅ・・・・迎え  む・・・かえに・・・・・ぃ」 ゆきはなの声が涙に曇ると 堪り兼ねて女達は啜り泣き、 隣の直嗣は俯いた。 俺は・・・俺は・・・ 今すぐ抱き締めたい衝動を 必死に押さえながら 惚れた女の“殉愛" を 見守るだけ・・・・、 ただ、見守るだけ・・・・・。
/485ページ

最初のコメントを投稿しよう!

327人が本棚に入れています
本棚に追加